「ただの疲れ」で済ませないすねの痛み
2026年08月3日
朝晩のウォーキングが日課になっている方、久里浜海岸沿いを毎日歩かれている方も多いのではないでしょうか。健康のために体を動かすことはとても良い習慣ですが、その一方で「歩いた日の夕方になると、すねのあたりがだるく重い」「階段を下りるとき、すねの内側にジンとした違和感がある」といったお声を、来院される方からしばしば伺います。
たとえば、定年を機に一念発起して毎日1万歩を目標に歩き始めた方が、始めてから3週間ほど経ったころ、足の甲に違和感を覚えるようになった、というのはよくあるパターンです。本人にとっては「体に良いことをしているだけ」という感覚のまま、痛みだけが少しずつ強くなっていくケースも少なくありません。
今回は、こうした「使いすぎ」によって骨に負担が蓄積する状態、いわゆる疲労骨折とその手前の段階について、最近まとめられた国際的な専門家会議の合意内容をもとにご紹介します。
骨も少しずつ壊れ、少しずつ作り直されている
骨は一度形づくられたら変化しない、と思われがちですが、実際には日々、古い骨が壊され新しい骨に置き換わる「代謝」を繰り返しています。適度な運動はこの代謝を活発にし、骨を丈夫にしてくれます。
ところが、休養が足りないまま同じ動作を繰り返したり、急に運動量を増やしたりすると、骨を壊すスピードが新しく作るスピードを上回ってしまうことがあります。この状態が長く続くと、骨の内部に小さなひび割れのような変化が生じ、痛みとして現れてきます。これが「疲労骨折」、またはその手前の段階である「骨ストレス反応」と呼ばれるものです。
すねの骨(脛骨)の外側や、足の甲の中ほどの骨(中足骨)は、比較的経過が穏やかなことが多いとされています。一方で、股関節の付け根に近い大腿骨頸部や、足の甲の内側にある舟状骨といった部位は、負荷を減らしてもなかなか回復に向かいにくく、より慎重な経過観察が必要な部位として、国際的な専門家会議でも区別されています。どの部位に違和感があるかによって、対応の仕方や医療機関へつなぐ判断基準が変わってくるということです。
こんな違和感に心当たりはありませんか
- ウォーキングやジョギングをした日の夜、すねや足の甲がズキズキする
- 運動を始めた直後は気にならないが、後半になると同じ場所が痛む
- 押すと決まった一点だけ痛みが強い
- 数日休むと落ち着くが、また運動を再開するとぶり返す
- 靴を変えてから、あるいは運動量を急に増やしてから痛みが出てきた
ひとつでも当てはまる場合、体が負担を減らすよう求めている状態だと考えられます。我慢して動き続けるのではなく、一度立ち止まって見直すきっかけにしていただきたいところです。

原因として考えられる状態
先述の国際的な専門家会議では、骨ストレス障害が起こる背景として、次のような要因が繰り返し指摘されています。
まず、運動量そのものの急激な増加です。普段歩かない距離を急に歩いた、坂道や砂浜など普段と違う環境で運動した、といった変化は骨への負担を一気に高めます。次に、休養不足です。同じ部位に繰り返し負荷がかかる状態が続くと、修復が追いつかなくなります。さらに、栄養状態も見過ごせない要因とされています。食事量が不足していたり、カルシウムやビタミンDの摂取が偏っていたりすると、骨の修復能力そのものが低下すると考えられています。
加齢に伴って骨密度が徐々に下がっていくことも、無視できない背景のひとつです。若い頃と同じ距離、同じペースで歩いているつもりでも、骨がその負荷を受け止める余力は少しずつ変化しています。特に女性の場合、閉経を境にホルモンバランスが変化し、骨密度の低下が進みやすくなることが知られています。健康づくりのために新しく運動を始めようという時期と、骨がもろくなりやすい時期が重なりやすい点には、少し注意を向けていただきたいところです。
加えて、足の運び方やアーチの状態、履いている靴の底のすり減り方なども、特定の部位に負担が集中する一因になり得ます。長年履き慣れたつもりの靴でも、底がすり減って本来のクッション性が失われていることは案外多く、見落とされがちなポイントのひとつです。
姿勢や生活習慣との関わり
長時間座った姿勢が続く仕事をされている方は、股関節や足首の動きが硬くなりやすく、歩行時に本来使うべき筋肉が働きにくくなることがあります。すると、その分の負担がすねの骨に直接かかりやすくなる場合があります。
また、日頃から階段を避けてエレベーターやエスカレーターを選ぶ生活が続いていると、いざ長い距離を歩いたときに、普段使っていない筋肉に急な負荷がかかりやすくなります。逆に、急に張り切って運動量を増やす週末だけの運動も、骨への負担という点では偏りが大きくなりがちです。
様子を見すぎることで起こりうること
すねの違和感を「歩き疲れ」として片づけ、痛みがあるまま運動を続けてしまうケースを時々お見かけします。骨ストレス反応の段階で負担を減らせば比較的短期間で落ち着くことが多いとされていますが、痛みを我慢して運動を継続すると、骨への負担が蓄積し続け、回復までに要する期間が長引く可能性があります。歩くこと自体が怖くなってしまい、外出の機会が減ってしまうという副次的な影響が出る方もいらっしゃいます。
※状態によっては医療機関での検査をおすすめする場合もあります。痛みが2週間以上続く場合や、安静にしていても痛む場合は、レントゲンやMRIによる評価が可能な整形外科を受診されることも選択肢としてお考えください。
当院でのチェックとアプローチ

当院ではまず、痛みの部位や運動歴、普段の生活習慣について詳しくお伺いします。歩行や片脚立ちの際の体の使い方を確認し、足首や股関節の動きに制限がないかをチェックします。そのうえで、硬くなった筋肉や関節に対して手技によるアプローチを行い、体重のかかり方に偏りが出ている部分の調整を行います。
あわせて、当面の運動量の調整についてもご相談させていただきます。完全に運動をやめる必要がない場合も多く、痛みの出ない範囲での活動を一緒に探っていきます。たとえば、痛みが落ち着くまでは距離を半分に減らして平坦な道だけを歩き、様子を見ながら少しずつ距離や坂道を戻していく、といった段階を踏んだ進め方をご提案することもあります。日常生活での歩き方の癖や、靴の選び方についてもアドバイスさせていただくことがあります。
回復のペースは人それぞれです
「いつになったら元通り歩けるようになるのか」というご質問をよくいただきますが、回復にかかる時間は、痛みの部位や程度、それまでの生活習慣によって大きく異なります。焦って早く距離を戻そうとすると振り出しに戻ってしまうこともありますので、痛みのない範囲を少しずつ広げていくという考え方を大切にしています。
たとえば、最初の1〜2週間は近所を10分ほど歩く程度にとどめ、痛みが出なければ次の週は15分、その次は20分というように、様子を見ながら歩く時間を延ばしていきます。途中で違和感がぶり返した場合は、無理に先へ進めず、ひとつ前の段階に戻ることも大切な判断です。
相談してみませんか
「これくらいの違和感で来院していいのか」と迷われる方も多いのですが、早い段階でご相談いただくほうが、その後の経過が穏やかになりやすいというのが実感です。久里浜・北久里浜周辺にお住まいで、歩いたり走ったりする習慣のある方は、すねや足の違和感を我慢しすぎず、お気軽にお声がけください。
長く歩ける足でいるために
疲労骨折は、特別なスポーツ選手だけに起こるものではなく、日々のウォーキングやジョギングを楽しむ方にも起こり得るものです。違和感の段階で対処することが、長く体を動かし続けるための近道になります。無理をせず、体からの小さな知らせを見逃さないようにしていただければと思います。

参考文献
- Physio Network Research Team.「国際デルファイコンセンサス:競技者の骨ストレス障害」International Delphi Consensus on Bone Stress Injuries in Athletes. Physio Network Research Review, 2026年.
URL: https://www.physio-network.com/research-reviews/other/international-delphi-consensus-on-bone-stress-injuries-in-athletes/





